AIツールの授業における利用について(ver. 1.0)

2023年4月28日
理事・副学長(教育・情報担当)/学部・大学院教育部会長 太田邦史

東京大学の方針として、ChatGPTを始めとした言語生成系AIツールの教育現場での利用を一律に禁止することはしません。その問題点を理解しつつも教育・研究・業務利用における可能性を積極的に探り、活用する上での実践的な知識や注意、長期的な影響に対する対話を継続し、発信していく方針を取ります。

しかしながら、個々の場面、特に教育においては、場面ごとの教育目標・達成目標に鑑みて利用を禁止することが適切な場合があり得ます。もとよりAIツールに対するスタンスは授業ごと、課題ごとに適切に決められるべきもので、どちらの方針をとったにせよ、それはその教員(ないし教員のグループ)が、教育効果が高いと考えた教育手法の一部と位置づけられるべきものです。

これまで本学における教育が、見識の高い教員(や学科・専攻などのグループ)による自主的、個性的、創造的な教育方法の工夫に多くを期待し、委ね、質の高い教育を作り上げてきたのと同様に、言語生成系AIを使わせる・使わせない・どう使うかという判断も、教員やそのグループが教育効果を最大にすることを目標に行うべきものであると考えます。

そのことを前提にしつつ、教育方法を設計・検討するにあたり言語生成系AIについて知っていただきたい事項、現時点での考え方をまとめます。

[1] 自分がこれまで課してきた課題や試験などを題材にChatGPT、BingAI、Bardなどの言語生成系AIに答えさせ、そのレベルを感じておく

言語生成系AIの文章生成能力には、限界や得手不得手があります。特に、指定した事項に関して、短いまとめの文章やエッセイを書かせる問題などは得意と言われています。教育現場で考えられる典型的な事例としては、学生が時間をかけて書くレベルの文章を、言語生成系AIにより労せず作り上げる可能性があります。

まずは、ご自分が授業で課してきた課題がChatGPTなどの言語生成系AIによってどのくらい的確に答えられるのかを感じておき、教育方針・方法の設計に反省させることが必要になってきています。

なお、試験問題は機密性が高い文書ですので、基本的に言語生成系AIにそのままの形で入力しないでください。

[2] 授業や課題ごとに、言語生成系AI利用に対する教員のスタンスを明示する

上記のようなことがあるからといって、言語生成系AIで容易に回答が得られる問題や課題は避けるべきということではなく、何を課題とするかは学生の教育効果(訓練効果)を最大にするべく決められるべきものです。言語生成系AIを使わせて答えさせるのでは教育目的が達せられない場合は、そのことを学生に伝え、それを使わずに答えるように指示すべきです。基本的に、各授業担当者はその教育目的を鑑みた上で、ご自身の判断で、課題に対して言語生成系AIを利用するか、禁止するかを決め、それを受講生に明確に伝えてください。

なお、言語生成系AIを利用する場合には、学生に対し、利用に付随する①個人情報や機密情報の漏洩の危険性、②限られた企業への情報集中の助長、③著作権侵害の懸念、④学習された内容に偏りが生じる可能性があることなど、現在社会で指摘されている問題点があることも合わせてご説明ください。言語生成系AIを利用したレポートでは、どの言語生成系AIを利用したかを学生に明記させることも推奨されます。

[3] 課題の目的、学生にとっての達成目標、成長目標を学生に伝える。得られた結果ではなく解答を得る過程が重要であることを説く

その際、自分で課題について考えることの意味、自ら工夫することの意義、結果だけを言語生成系AI(や他人)から入手したのでは得られない経験の重要性等を、当たり前であっても説明していただくのが良いでしょう。このことはこれまでの教育の場でも重要でしたが、言語生成系AIによって容易に結果を得られる課題で、その利用を禁ずる場合に特に重要なプロセスとなります。

教育で求めているのは単なる結果ではなく、その結果を生み出す過程で何を身につけるかであることを、学生によく説明して頂きたいと思います。なお、言語生成系AIを利用可とした場合でも、言語生成系AIで作成された解答を丸ごとコピー・ペーストして提出することは、学生にとって何ら学習効果もなく、基本的には認めるべきではありません(ただし、言語生成系AIの解答精度を追求する課題などは例外とします)。言語生成系AIで作成された解答には間違いがある可能性があることを述べ、学生自身がその内容の真偽を精査することの必要性を示して下さい。

現時点の言語生成系AIの水準を前提にすると、さらに、以下の諸点を指摘できます。

[4] 実践可能な範囲で、言語生成系AIによって安易に解答が得られない課題・出題形式を検討する

利用を認める場合でも、禁止する場合でも、言語生成系AIの簡単な利用によって安易に解答が得られないように、課題の内容・形式などを一工夫することは常に検討に値します。

ただし、その課題の本来の教育目的、学習目標を失わないように注意する必要があります。例えば言語生成系AIに答えられない問題を追求した結果、課題の難度や分量が無闇に上がってしまうことは本末転倒と言えます。課題の目標を歪曲しない範囲での形式上の工夫には以下のようなものがあります。

(参考例: CMU Eberly Center https://www.cmu.edu/teaching/technology/aitools/index.html 3. How can I design my assignments to facilitate students generating their own work? 等)

  • 短い課題を授業中に課す
  • 解答に至るまでの「過程」を重視する
  • 課題に選択の余地を設ける(自らやりたいと思う課題を選ばせる)
  • 情報ソースを表示させる など

[5] AIによって生成された文章であるかの検出ツールは過信しない

言語生成系AIによって生成された文章であるかを検出すると標榜するいくつかのツールがありますが、生成ツール自身が急速に変化する中で過信はできませんし、ましてや学生が不正に言語生成系AIを利用した証拠としては不十分であるという認識を持っていただきたいと思います。

[6] 教育効果をもたらす影響と効果について

レポートを執筆するために図書館へ足を運んでの調べ物をしていた時代から、現在は多くの場合Googleなどインターネット検索が盛んに利用されるようになり、かつ圧倒的に効率的になりました。言語生成系AIもこの事例と同じように急速に利用者が増える可能性があります。

ただ、言語生成系AIは、言語モデルが適当と思われるテキストを生成しているだけですので、その真贋についてはインターネット検索(この結果にも一定の誤謬が含まれるものです)以上に問題があります。検索結果を鵜呑みにしてはならず、信憑性を自ら吟味できること、より信憑性の高い情報は一次情報源に向かって探索を深めなくては得られないことは、インターネット検索の場合と同様に変わりません。

言語生成系AIの登場に伴って、そのような調査の基本 — 情報源の信憑性の吟味や情報源の表示や確認など — を改めて教えることが重要になり、教育の機会でもあります。安易なインターネット検索・言語生成系AIだけによる問題解決の危険性についても、学生に向けて問題提起をして下さい。

一方で、言語生成系AIにより新たな大学教育の可能性が開かれる可能性もあります。例えば、学生自身の学びのサポートです。レポートを執筆する際に学生同士や学生と教員が議論をし、その中で適切な質問・対話を行うことも、重要な学習過程です。このような人間同士の討議や対話の重要性がこれからも失われることはないと思います。

しかしながら、学生の自己学習において、言語生成系AIに適切な問いを発し、AIと対話をすることも、自らの思考・探求の方法論として重要になってくる可能性があります。また、人との対話や公衆の面前での質問が苦手という学生にとっては、言語生成系AIが質問の機会を与える場を提供するかもしれません。さらには、個人的にブレインストーミングやプレゼンテーションの壁打ち相手などに利用できるかもしれません。このような変化は始まったばかりですので、影響を見極めながら適宜に教育方法の改善に努めていくことが求められます。

もう少し細かい方法としては、プロンプト(質問や指示)の提示法を工夫して、求めるものに最も近い回答を言語生成系AIが返す技術を調べる授業や、言語生成系AIの回答の間違いや限界点を見つける授業など、教育現場での新たな利用法もあり得ます。是非、創造的に新しい大学教育の方向性を見出していただきたいと思います。

終わりに

より中長期的な視野では、言語生成系AIに訊けば、または行わせれば(時に不正確、場合によりでたらめであることは前提としながらも)たくさんの有用な情報収集や作業の効率化が可能になるという前提で、教育内容、教育方法、評価方法などを変えるべきか、またはどのように変えていくべきか、という挑戦があります。

これは各分野で教育に携わっている教員の間の対話、分野をまたいだ対話を通じて形成されるものと思います。これについて全学的な議論をする場を設ける予定ですので、その際に各分野での考え方や様子なども交換できればと思っています。また、それを受けて、本文書の内容も逐次更新していきたいと考えております。


この文書の原案は「どこでもキャンパスプロジェクト」のメンバーによって作成されたものです。


本ポータルサイト (utelecon) の生成AI(ChatGPT等)関連情報ページはこちら

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